1980年代終盤から90年代序盤にかけての日本経済の絶頂期、アーノルド・シュワルツェネッガーやハリソン・フォードらハリウッドスターが日本のコマーシャルに登場するという興味深い現象が起きていた。トミー・リー・ジョーンズは長期間続く缶コーヒーのCMに今もなお出演している。
しかし、ドウェイン・ジョンソンやライアン・レイノルズといった現世代のハリウッドスターの姿はあまり見かけない。これは日本企業が当時のようなCM予算を持っていないからだけではなく、日本でハリウッドがかつてほど魅力的な存在ではなくなったという見過ごされがちな事実のためだ。
世界3位の映画市場である日本で、米国のシェアは低下している。新型コロナウイルス禍前に始まったこの現象は一段と進んでいる。今年は日本の興行収入上位5本のうち4本が邦画で、ハリウッド映画は80年代のヒット作の続編「トップガン マーヴェリック」のみにとどまった。
これはハリウッドと日本の間で広がる断絶の一部だ。しかし、製作会社が中国で直面する問題とは異なり、イデオロギーの相違が原因ではないし、コロナ禍に伴う現象でもない。日本は世界的な感染拡大中もおおむね映画館の営業を継続した数少ない国の一つだ。
日本人が邦画を好む傾向は、予算規模の大きいアニメ映画が増えたことによって加速した。トップガン以外の興収上位5位の映画は、「ONE PIECE FILM RED」や「劇場版 呪術廻戦 0」など日本のアニメ作品だ。
ジェームズ・キャメロン監督でさえ影響は免れない。同監督の「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」は日本で期待外れの初登場3位となり、何週間も前から公開されていたアニメ2作品に後れを取った。一部の推計によると、日本はアバターが首位スタートとならなかった唯一の市場だという。
アバター第1作は日本でも大ヒットし、国内歴代興収12位となったものの、それから十数年がたち、観客の好みは変化している。「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」はコロナ禍の最中に公開されたにもかかわらず、スタジオジブリの「千と千尋の神隠し」を抜き、歴代興収1位となった。
観客の嗜好が変わった理由は一つではない。しかし、一つの要因は邦画の質向上であることは間違いない。アニメーションを再利用し、何度も同じアクションシーンを使い回すような時代は終わった。日本のアニメが今や高額予算となっていることは、歴代興収5位となった新海誠監督の2016年の大ヒット作「君の名は。」に最も端的に示されている。
日本が国内の観客の心をつかむのに成功していることは称賛されるべきだ。ここに保護主義の問題はない。しかし、この傾向が長期続くなら若干困惑せずにはいられない。一部の世代の間では、共通の言葉がなくても、シュワルツェネッガー主演の大ヒット映画や、レオナルド・ディカプリオが初期に出演した作品への愛着を共有することでつながりを容易に築くことができる。そうしたことが全くなくなってしまうのは、何か貴重なものを失っているように感じられる。

もちろん、常に別の選択肢はある。日本が一段と高品質になっている作品を海外に輸出した方がいいということだ。ネットフリックスで配信されているアニメは既に世界中で高い評価を得ている。ソニーグループがアニメ配信サービス「クランチロール」を買収したことも注目に値する。
ネットフリックスで日本製作のドラマ「今際の国のアリス」の第2シーズンの配信が先週始まったが、視聴者の共感を呼ぶかどうかは見ものだ。似たようなテーマの韓国ドラマ「イカゲーム」が国際的な大ヒットになった一方で、「今際の国のアリス」の第1シーズンは海外でほとんど爪痕を残せずに終わった。しかし、いずれは日本のCMに往年のハリウッドスターが登場するのではなく、欧米で日本のスターが商品を宣伝することになるかもしれない。
(リーディー・ガロウド氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題:How Japan’s Falling Out of Love With Hollywood: Gearoid Reidy(抜粋)
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