北村さんのこの発言を受けて、安田さんは「お芝居の世界じゃないと、なかなかあり得ないことだよね」とほほえむ。北村さんは続ける。
「『とんび』では、老けメイクをして、声音も変えて演じてみたんですが、監督からはナチュラルにしゃべるほうがいいというアドバイスをもらいました。僕が親の年齢になった時のことを想像して、ああ、こんな感じなのかなと思いながら演じるのは新鮮でしたね」
さまざまな年齢のアキラを演じる北村さんを見ながら、安田さんは「大変だな」と感じていたという。
「作品のなかで何十歳も歳をとりますから。『あれ、俺いま何歳だっけ?』ってなっちゃうよね(笑)。でも、役者冥利に尽きるとも言えるわけです」
安田さんのこの言葉に、北村さんは大きくうなずいた。
「劇中では、実年齢に近い20代を演じたシーンはわりと短くて、次のシーンでは一気に年齢が上がっていたりします。だから、描かれていない年月にこんな人生を生きてきたんだな、ということを観ていただく方に感じさせたい、という思いはありました」
支え合いながら生きる
安田さんが演じる照雲には、子どもがいない。そのため、血のつながりのない、幼馴染の息子であるアキラに対して、まるで自分の息子のように接しているシーンはとりわけ印象的だ。
「ヤスとアキラは親父ひとり、息子ひとりの家族です。また、薬師丸ひろ子さんが演じる居酒屋の女将は、ハタチで町を出て結婚をし、子どもを生んだけれど、ひとりになって戻ってきた人。そして、照雲夫婦は仲はいいけれど子どもを持たず、杏さん演じる由美はシングルマザーである。つまり、重松さんはいろいろなカタチの家族を描いているんです。そうした人たちが、それぞれに支え合って生きていこうとしている。現代では珍しくなってしまったかもしれませんが、それが地域社会の本来の姿なのかもしれません」