東映創立70周年を記念した公開中の映画「レジェンド&バタフライ」(大友啓史監督)。主人公の織田信長を演じた木村拓哉(50)は「この作品に関わった時間がアルバムをめくるように思い出される。すべてのことが、自分にとって大きな出来事だった」と明かす。公開前には信長ゆかりの場所を訪ね、思いをはせた。 (花井康子)
美濃の斎藤道三(北大路欣也)の娘・濃姫(綾瀬はるか)との政略結婚から、桶狭間の戦いや比叡山延暦寺の焼き討ちを経て、本能寺の変に至るまでの33年間の物語。誰もが知る激動の歴史を、夫婦の関係性を中心に描いた。
若い頃は「うつけ者」と呼ばれた信長。「うつけ感出てました? 良かった!」と安堵(あんど)する。大友監督は演技に関して「いい意味で丸投げだった。演じている中で、ある感情が湧き、台本という設計図に書かれていない動きをしてもOK。『信長がそう思ったんだったら』って」
綾瀬とはアクションシーンが多数。「彼女は着物で独特の所作が必要だったけど、最高のパフォーマンスだった。サッカーでいうなら、パス出したら、もうそこにいる、というような。アイコンタクトもいらない感じ」と振り返る。
以前から信長には特別に引かれていた。テレビの時代劇で演じたのは25年前。「あの時からずっと彼の鼓動は続いていて、今回また向き合わせてもらったという感覚がある」
◆孤独と弱さと
オリジナル脚本を手がけた古沢良太は、木村と信長との共通点に「孤独」を挙げた。「そう思われても仕方のない部分はある。でも、自分には家族もスタッフもいてくれるので」
多くの人の共感を得る部分には、信長の「弱さ」を挙げる。「結局人なので、やっぱりそばにいてほしい人がいる。信長はとんでもない権力を手に入れたけど、死にあらがう理由として、『あの人の元へ帰りたい』という思いがあったんじゃないかな」
岐阜市で昨年11月に開かれた「ぎふ信長まつり」では、信長役で「騎馬武者行列」に参加。46万人が国民的スターをひと目見ようと詰めかけた。
ソウルで150人以上が亡くなった雑踏事故の直後でもあり、「人が集まることを手放しで喜べない状況だったが、ゆかりの町で続いてきた文化に参加させてもらい、信長というスーパーヒーローのパワーをいただけた」。決して木村拓哉だからじゃないという謙遜を言外ににおわせた。
歌手としての活動も続けている。「役者の仕事とはまた違う。目の前にいるオーディエンスに直接、何かを届けられるという事実。あの瞬間はヤバイです」
東京・丸の内TOEIなどで上映中。