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映画『人生クライマー』武石浩明監督が語る、唯一無二の登山家・山野井泰史の魅力 | ORICON NEWS


 世界の巨壁に《単独・無酸素・未踏ルート》で挑み続けた登山家・山野井泰史さん(57)を追ったドキュメンタリー映画『人生クライマー 山野井泰史と垂直の世界 完全版』が25日より公開。大学時代は山岳部に所属し、ヒマラヤ登山経験もある武石浩明監督(55)に、ドキュメンタリー映画制作の裏側や本作に込めた思いなどを聞いた。

ドキュメンタリー映画『人生クライマー 山野井泰史と垂直の世界 完全版』(公開中)武石浩明監督 (C)ORICON NewS inc.

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――今回、映画化に至った経緯を教えてください。

【武石監督】運命みたいなものもあったんでしょうね。山野井さんは僕の2つ上。大学の山岳部にいた頃から同年代にレベル違いのすごい人がいる、と思っていました。大学卒業後、テレビ局に入って6年目のことでした。1996年、山野井さんが、ヒマラヤに残された「最後の課題」と言われる「マカルー西壁」に、「単独」「無酸素」で挑むというので、密着取材をさせてもらったんです。この時の挑戦は、失敗に終わってしまったのですが、山野井さんはその後も挑戦をし続け、ぼろぼろになっても、また立ち上がって、挫折と復活を何度も繰り返し、僕はその姿をずっと見てきました。

 マカルー西壁の密着取材から四半世紀経って、登山家・山野井泰史を見つめ直すいい時期だと、思ったんです。当時の僕もディレクターとして未熟で、技量不足だった。そのことが心の中にずっと澱(おり)のようにたまっていたんです。25年経った今なら、違う目線で描けるんじゃないかと思い立ったのが昨年の3月。新たに取材をして、7月に深夜番組『ドキュメンタリー「解放区」』(TBS)で放送しました。今年3月に『TBSドキュメンタリー映画祭2022』で上映され、さらに新規カットを追加した完全版として劇場公開することになりました。

マカルー西壁に挑む 山野井泰史(1996年)ドキュメンタリー映画『人生クライマー  山野井泰史と垂直の世界  完全版』(公開中)(C)TBSテレビ

マカルー西壁に挑む 山野井泰史(1996年)ドキュメンタリー映画『人生クライマー 山野井泰史と垂直の世界 完全版』(公開中)(C)TBSテレビ

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――山野井さんは昨年、アルパインクライミング界で目覚ましい活躍を見せ、その業績が後世のアルピニストたちに多大な影響を与えた人に対して贈られるピオレドール生涯功労賞を受賞されました。山野井さんの偉業とは?

【武石監督】登山(アルパインクライミング)ほど死亡率が高い趣味はない。その中でも、山野井さんのような単独・無酸素・未踏ルートという登山スタイルは最も無謀と言われる。それを40年前からやり続けている。さらに、失敗した登山もありますし、大けがを何度もしてますけど、必ず降りてくる。それもすごいことなんです。

 山野井さんの場合、年に一度、目指す山を決めて、トレーニングプランを立てるんですよ。アスリートのような考え方で、いまの自分に何が足りないかを徹底的に考えて、日々淡々とトレーニングを積み、クライミングテクニックを磨く。それが、どんなに難しい山に挑んでも死なないことに通じますよね。

 これまでスポンサーなど取らずにやってきているのもすごいところ。純粋に自分の登山に集中したい人なんですよね。コマーシャリズムを徹底的に排除して、テレビに出たり、講演会をしたり、ガイドをしたりして稼ぐといったこともやらないんです。登山家だった奥さんの妙子さんと二人、今は静岡県伊豆に住んでいて、庭の畑を耕し、魚を釣って暮らしています。彼らを見ていると「ミニマムでシンプルな生活にはあまりお金は必要ないんだな」と思いますし、そこまで自分の好きなことに一生を賭けるとか、なかなかできないと思うんです。それを突き詰めてやっている彼の生きる姿を見て、やはり生きる勇気とかやる気を持ってくれたらうれしいです。

ドキュメンタリー映画『人生クライマー  山野井泰史と垂直の世界  完全版』(公開中)武石浩明監督 (C)ORICON NewS inc.

ドキュメンタリー映画『人生クライマー 山野井泰史と垂直の世界 完全版』(公開中)武石浩明監督 (C)ORICON NewS inc.

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――本作のほかにも、TBSは『戦場記者』(12月16日公開、須賀川拓監督)、『日の丸寺山修司40年目の挑発』(来年2月24日公開、佐井大紀監督)と立て続けに劇場公開を控えているだけでなく、来年3月17日には3回目となる「TBSドキュメンタリー映画祭 2023」を東京・大阪・名古屋・札幌で開催します。TBSがドキュメンタリー映画に力を入れていることを、どう思われているのでしょうか。

【武石監督】僕ら制作者にとってはチャンスだと捉えています。日本のテレビ番組は放送されたらおしまいでしたが、インターネットでアーカイブ化されるようになったことで、ニュース・報道番組の映像に対する考え方も変わってきています。自分が死んだ後にも残るような作品を作りたいと思っています。テレビで放送する時には絶対使わないような長回しの映像も、映画にしたら使いどころがありそうだから撮っておくとか、取材時の意識も違ってきていますね。

 作った作品はより多くの人に見てもらう事が大事だと思っています。ちょっと語弊があるかもしれないけれど、エンターテイメント的な要素も必要だと思うんですよ。特に映画館で公開してお金を払って観ていただくことを考えたら、「見てよかった」と思えるカタルシスも大事だと思うんです。第一に取材対象の魅力がありますけれど、構成やストーリーラインも重要で、そこにプロとしての腕の差が出るんじゃないか、と思います。

 今回も「自分の手が届かない、本当に尊敬できる登山家を取材したい」と思って、やはり山野井さんしかいないと思っていましたから、取材対象の魅力は十分にある。その山野井さんをどう語るか、ですよね。今回の作品は山野井さんのクライマー人生を僕なりに解釈して作ったもので、もちろん全部真実ですが、それをどういう流れで伝えていくかという意味でのストーリーラインがちゃんとできてないと、観ていて面白くない。一番大事なのは最後のカタルシスだと思っていて、それに向けて作っていきました。

ドキュメンタリー映画『人生クライマー  山野井泰史と垂直の世界  完全版』(公開中) (C)TBSテレビ

ドキュメンタリー映画『人生クライマー 山野井泰史と垂直の世界 完全版』(公開中) (C)TBSテレビ

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 フィクションの映画なら最初からエンディングを決められるけれど、ドキュメンタリーはそうはいかない。取材しながら、撮影しながら考えていくんですよ、どんなエンディングにしたらいいだろうって。

 今回のラストシーンは、カメラを回していない時に山野井さんに案内されてしまったものなんです(笑)。いまからカメラを回すから、同じことをもう1回やって、とは言えない。それをやったらもう、別なものになってしまう。だから、ラストシーンのために、初見のスタッフに改めて取材に行ってもらいました。ドキュメンタリーの難しいところは、そういうところ。人は、最初に話す時が一番なんですよ。初めての言葉を引き出すために、いつどこで何を聞くか、というのを考えながら取材していますし、カメラが回っていることを意識してしまうとよそ行きの顔になってしまうからそうならないように撮るようにしています。

 ノーナレーションの作品も増えているけど、あまり心に残らないような気がして。ちゃんとナレーションを入れることにしました。山好きとしても知られ、山岳映画『エヴェレスト 神々の山嶺』(16年)でも主演を務めた岡田准一さんにオファーしたのですが、映画にぴったりでした。ドキュメンタリー映画のナレーションは初めてだと言っていたけれど、彼にお願いして大正解でした。

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